「もう少しシュッとした感じで」
「なんとなく違うんですよね」
「もう少し高級感を出せませんか?」
デザインの仕事では、こんな言葉が飛び交うことがある。
発注する側も困っている。
デザイナーも困っている。
しかし、どちらが悪いわけでもない。
そもそもデザインは、色、形、余白、文字、写真、動きなど、さまざまな要素によってつくられている。
それを「言葉」だけで共有しようとすれば、認識のずれが生まれるのはある意味当然である。
とはいえ、「なんか違う」のままでは、デザイナーも何を直せばよいのか分からない。
では、デザインの修正指示は、どう伝えればよいのだろうか。
今回は、デザイナーへのフィードバックや修正依頼で使える「言語化」の方法を7つに整理してみたい。
デザインを見た瞬間、人は感覚的に判断する。
「好き」
「ちょっと違う」
「こっちの方がいい」
もちろん、その感覚自体は悪いものではない。
問題は、その感覚だけを修正指示にしてしまうことである。
たとえば、
「この青、あまり好きじゃないです」
と言われても、デザイナーにはいくつもの解釈が生まれる。
明るすぎるのか。
鮮やかすぎるのか。
ブランドイメージと違うのか。
ターゲットに合っていないのか。
そこで、一度「目的」に戻ってみる。
「30〜40代の経営者に信頼感を持ってもらいたいので、少し落ち着いた印象にしたい」
ここまで言葉にできれば、話は大きく変わる。
デザイナーが考えるべきなのは、「青を変えること」ではなく、どうすれば信頼感をつくれるかになるからだ。
修正指示に迷ったときほど、
「そもそも、このデザインで何を実現したかったのか」
に戻る。
それだけでも、コミュニケーションはかなり変わる。
「もっとシンプルに」
「もっとスタイリッシュに」
「もう少し柔らかく」
便利な言葉だが、実はかなり曖昧である。
なぜなら、「シンプル」の基準は人によって違うからだ。
そんなときに役立つのが、比較である。
「今よりも、情報量を少なく見せたい」
「高級ホテルというより、上質なセレクトショップのような印象にしたい」
「親しみやすさは残したいが、カジュアルにはしたくない」
AではなくB。
A寄りだけれど、Bまではいかない。
比較対象を置くだけで、抽象的な感覚に輪郭が生まれる。
特に「高級感」「親しみやすさ」「先進性」「信頼感」といった言葉は、人によってイメージするものが大きく異なる。
形容詞だけを渡すのではなく、その言葉が自分にとって何を意味しているのかまで共有したい。
デザインを見ていると、つい具体的な修正方法を伝えたくなる。
「文字を大きくしてください」
「ここを赤にしてください」
「写真をもっと上にしてください」
もちろん、明確な意図がある場合は問題ない。
ただ、すべてを具体的な指示にしてしまうと、デザイナーが考える余地がなくなってしまう。
たとえば、
「タイトルをもっと目立たせたい」
のであれば、文字を大きくすることだけが答えではない。
余白を変える。
周囲の情報量を減らす。
色のコントラストを変える。
配置を変える。
書体を変える。
さまざまな解決方法が考えられる。
だから、
「文字を大きくしてください」
ではなく、
「最初にタイトルへ目が行くようにしたい」
と伝えてみる。
方法ではなく、実現したい状態を共有する。
その方が、デザイナーの専門性を活かしやすくなる。
発注者とデザイナーの意見が分かれたとき、強い判断軸になるのがターゲットである。
「私はAが好きです」
「私はBの方がいいと思います」
これでは、最後は好みの勝負になってしまう。
そこで主語を変える。
「このサービスを使う人は、どちらをどう感じるだろう?」
たとえば若年層向けのサービスなのか、経営者向けなのか。
初めてブランドに触れる人なのか、既存顧客なのか。
スマートフォンで一瞬見るものなのか、時間をかけて読むものなのか。
対象となる人や利用する場面によって、適切なデザインは変わる。
デザインの議論が個人の好みに寄り始めたら、ターゲットへ戻る。
これは修正指示だけではなく、デザインの意思決定そのものに使える考え方である。
参考サイトや画像を共有することは、とても有効である。
ただし、
「こんな感じにしたいです」
だけでは、意外と伝わらない。
発注者は余白を気に入っているかもしれない。
デザイナーは配色を参考にしていると思うかもしれない。
別の人は写真の世界観だと受け取るかもしれない。
同じデザインを見ても、人によって見ている場所は違う。
だから参考デザインを渡すときは、
「このサイトの余白の取り方が好きです」
「このブランドの落ち着いたトーンを参考にしたいです」
「レイアウトではなく、写真の世界観だけを参考にしたいです」
のように、何を参考にしてほしいのかまで伝える。
参考資料は、答えを渡すためのものではない。
認識を近づけるための共通言語として使う方がうまくいく。
修正指示を分かりやすくするシンプルな方法がある。
「どこを変えたいか」と「なぜ変えたいか」をセットで伝えることだ。
たとえば、
「ボタンをもっと大きくしてください」
だけではなく、
「次のページへの導線に気づきにくいので、ボタンをもう少し認識しやすくしたいです」
と伝える。
すると、デザイナーは「ボタンを大きくする」以外の解決策も考えられる。
位置を変える。
余白を変える。
コントラストをつける。
周囲の要素を整理する。
場合によっては、ボタンを大きくしない方が良いかもしれない。
修正理由が共有されていれば、デザイナーは単なる作業者ではなく、課題を一緒に解く人になれる。
デザインの修正で、最も大切なのはここかもしれない。
発注する側が、必ずしも答えを持っている必要はない。
「ここをこうしてください」
と言い切れなくてもいい。
むしろ、
「この部分だけ少し情報が重く感じるのですが、どうすればもっと自然に見えるでしょうか」
「もう少しブランドらしさを感じさせたいのですが、どんな方法が考えられますか」
と問いを渡すことができる。
すると、デザインは「指示する人」と「つくる人」の関係から、
一緒に考えるもの
へ変わる。
デザイナーは、言われた通りに画面をつくるためだけにいるわけではない。
課題を整理し、選択肢を考え、形にする。
そこにもデザインの専門性がある。
だからこそ、「答えを正確に伝えなければ」と考えすぎなくてもいい。
違和感は、違和感のまま伝えてもいい。
大切なのは、その違和感を一緒に考えられる余白を残すことなのだと思う。
「なんか違うんですよね」
デザインの現場では、嫌われがちな言葉かもしれない。
でも、本当は「なんか違う」こと自体が問題なのではない。
人は、すべての感覚を最初から言語化できるわけではない。
むしろ、「なんか違う」と感じられたことは大切なスタート地点でもある。
問題は、そこで会話を終わらせてしまうことである。
何が違うのだろう。
誰にとって違うのだろう。
本当は、どう感じてほしいのだろう。
なぜ、そう思ったのだろう。
一つずつ問い直していけば、曖昧だった感覚は少しずつ言葉になっていく。
そして、その言葉をデザイナーと共有できたとき、修正は単なる「直し」ではなくなる。
デザインの修正指示というと、「どう伝えれば、思い通りに直してもらえるか」を考えがちである。
でも、本当に大切なのは、デザイナーを思い通りに動かすことではない。
発注する側には、事業や顧客についての知識がある。
デザイナーには、それを形にするための専門性がある。
どちらか一方だけでは、見えないものがある。
だから、デザインは発注して終わるものではなく、対話しながら一緒につくっていくものなのだと思う。
「なんか違う」
その一言も、終わりではなく、対話の始まりにできる。
良いフィードバックとは、デザイナーを動かすための指示ではない。
同じ問いを、一緒に考えるための言葉なのかもしれない。
デザインを、最後に「直してもらうもの」から、一緒に考えるものへ。
変えたい今日がある。
DESIGN AT THE CORE
次は、実践のステージへ。