「デザインは綺麗なのだが、何か違う。」
デザインの現場では、このような評価を耳にすることが少なくない。
配色やタイポグラフィ、レイアウトは洗練されている。それにもかかわらず、「企業らしさが伝わらない」「ユーザーに響かない」「期待した成果につながらない」と評価されるケースは数多く存在する。
この現象は、デザインの品質が低いことを意味しているわけではない。むしろ、視覚的な完成度は高い場合がほとんどである。
では、なぜそのような違和感が生まれるのであろうか。
本稿では、デザイン思考(Design Thinking)、人間中心設計(Human-Centered Design)、ブランドデザインの観点から、「デザインで最も重要なもの」について考察する。
優れたデザインが、必ずしも優れた成果を生み出すとは限らない。
美しいWebサイトであっても問い合わせが増えないことはある。
洗練されたブランドロゴを制作しても、企業の価値が十分に伝わらないこともある。
使いやすいUIを実現していても、ユーザーが離脱してしまうサービスも存在する。
これは、デザインが単独で価値を生み出すものではないからである。
デザインは、「誰に」「何を」「なぜ届けるのか」という文脈の中で初めて意味を持つ。
視覚的な美しさは重要な要素である。しかし、それだけでは事業成果を保証することはできない。
一般的に「デザイン」という言葉からは、色彩やレイアウト、ロゴなどの視覚表現を連想することが多い。
しかし、本来のデザイン(Design)とは、「設計すること」を意味する。
つまり、デザインとは見た目を整える行為ではなく、目的を達成するために最適な状態を設計する営みである。
その対象はWebサイトだけではない。
サービス、業務プロセス、ブランド、組織、さらには企業の経営そのものもデザインの対象となる。
重要なのは、「何を作るか」ではない。
「何を解決するのか」である。
したがって、課題を理解しないまま行われるデザインは、本質的には設計ではなく装飾に留まってしまう。
デザイン思考(Design Thinking)は、課題解決のための代表的なアプローチとして広く知られている。
一般的なプロセスは以下の五段階で構成される。
Empathize(共感)
Define(課題定義)
Ideate(発想)
Prototype(試作)
Test(検証)
ここで注目すべきは、最初のプロセスが「アイデア創出」ではなく、「共感」であるという点である。
つまり、ユーザーを理解し、置かれている状況や感情、行動の背景を深く知ることが出発点となる。
その理解があるからこそ、本質的な課題を定義できる。
課題が明確になることで初めて、有効なアイデアが生まれ、デザインという形へと落とし込まれていくのである。
デザイン思考と並び、多くのプロダクト開発で採用されている考え方が、人間中心設計(Human-Centered Design:HCD)である。
HCDでは、「利用者を中心に設計すること」が基本原則となる。
そのためには、
利用者を理解する
利用環境を理解する
利用目的を理解する
本質的な課題を理解する
ことが求められる。
ISO 9241-210でも、人間中心設計は利用者に対する深い理解を設計プロセスの中核として位置付けている。
つまり、デザインとは「作ること」よりも、「理解すること」に多くの時間を費やす活動なのである。
この考え方はブランドデザインにも当てはまる。
ブランドは、ロゴやコーポレートカラーだけで構成されるものではない。
企業が何を信じ、何を社会に約束し、どのような価値を提供する存在なのか。
その思想全体がブランドである。
したがって、MISSIONやVISION、VALUEを十分に理解しないままロゴやWebサイトだけを刷新しても、一貫したブランド体験は生まれない。
ブランドデザインとは、企業の思想を視覚的・体験的に翻訳する行為なのである。
ここまで見てきたように、
デザイン思考は「共感」から始まる。
人間中心設計は「利用者理解」から始まる。
ブランドデザインは「企業理解」から始まる。
一見異なる理論であっても、その根底には共通した考え方が存在する。
それは、
「理解すること」
である。
人を理解する。
企業を理解する。
社会を理解する。
そして、本当に解決すべき課題を理解する。
この理解があるからこそ、適切な問いが生まれる。
問いがあるからこそ、適切なコンセプトが生まれる。
そして、そのコンセプトがデザインという形になる。
「デザインで一番大切なものは何か。」
この問いに対する答えは、一つではない。
美しさを重視する人もいるだろう。
論理性や機能性を重視する人もいる。
共感や対話を挙げる人もいるはずである。
しかし、デザイン思考、人間中心設計、ブランド戦略といった代表的な理論を俯瞰すると、一つの共通点が見えてくる。
それは、優れたデザインは「理解すること」から始まるということである。
デザインとは、単に形を生み出す技術ではない。
人を理解し、企業を理解し、課題を理解し、その本質を形にする営みである。
だからこそ、デザインの価値は完成したアウトプットだけでは測れない。
その背景にある思考や対話、そして理解の積み重ねこそが、本当に価値あるデザインを生み出しているのである。
FeatU編集部では、これからもデザインとビジネスをつなぐ視点から、新規事業開発、サービスデザイン、ブランディングについて発信していきます。
デザインを、ビジネスの意思決定の中心へ。
その未来に共感してくださる方と、一緒にこのコミュニティを育てていけたら嬉しく思います。
そのコミュニティプラットフォームである「FeatU」は現在、β版として公開中です。
次は、実践のステージへ。