新規事業開発では、多くの企業がさまざまなフレームワークを活用している。
市場を分析し、顧客を理解し、提供価値を整理する。
その代表例として挙げられるのが、ビジネスモデルキャンバス(Business Model Canvas)やバリュープロポジションキャンバス(Value Proposition Canvas)である。
これらは事業の方向性を整理し、顧客へ提供する価値を言語化するための優れたフレームワークであり、新規事業開発において広く活用されている。
一方で、新規事業に携わる中で、一つ気になることがある。
「デザイン」は、どのタイミングで議論されるのだろうか。
本記事では、ビジネスモデルキャンバスやバリュープロポジションキャンバスの役割を整理しながら、新規事業開発におけるデザインの位置づけについて考えてみたい。
新規事業開発では、まず市場や顧客を理解することから始まる。
競合を分析し、ターゲットを定義し、顧客の課題を整理する。
そして、「どのような価値を提供するのか」を明確にする。
このプロセスで活用される代表的なフレームワークが、ビジネスモデルキャンバスとバリュープロポジションキャンバスである。
ビジネスモデルキャンバスでは、
顧客セグメント
提供価値(Value Proposition)
チャネル
顧客との関係
収益構造
コスト構造
など、事業全体を9つの視点から整理する。
一方、バリュープロポジションキャンバスでは、
顧客が抱える課題(Pain)
顧客が得たい成果(Gain)
価値提案(Value Proposition)
を整理し、「誰に、どのような価値を提供するのか」を具体化していく。
どちらも新規事業開発に欠かせない考え方であり、多くの企業で活用されている理由もそこにある。

しかし、ここで一つ問いを立ててみたい。
「その価値を、ユーザーはどのように感じるのだろうか。」
バリュープロポジションキャンバスは、「何を提供するか」を整理するためのフレームワークである。
しかし、
なぜ、このブランドを信頼するのか。
なぜ、このサービスを使い続けたいと思うのか。
なぜ、この体験に心地よさを感じるのか。
こうした感情や体験までは、フレームワークだけで設計できるものではない。
もちろん、これはフレームワークの欠点ではない。
役割が違うのである。
ビジネスモデルキャンバスやバリュープロポジションキャンバスは、「事業」と「価値」を整理するための道具であり、「体験」を設計することを目的としたものではない。
では、その体験は誰が、どのように設計するのだろうか。
ここでいうデザインとは、画面やロゴを制作することだけを指しているわけではない。
デザインには、さまざまなレイヤーが存在する。
ブランドデザイン
サービスデザイン
UXデザイン
UIデザイン
コミュニケーションデザイン
これらはそれぞれ役割が異なる。
ブランドは企業やサービスが約束する価値を表現し、サービスデザインは顧客接点全体を設計する。
UXデザインはユーザー体験を設計し、UIデザインはその体験を具体的な画面や操作へ落とし込む。
つまり、UIはデザインの一部に過ぎない。
デザインとは、本来「価値を体験として届けるための設計」なのである。
筆者自身、これまで新規事業開発や業務改革プロジェクトに携わる中で、さまざまな議論を経験してきた。
その中で感じてきたのは、デザインに関する議論が、コンセプトや要件が固まった後に始まるケースが比較的多いということである。
もちろん、近年ではサービスデザインやUXデザインを初期段階から取り入れる企業も増えている。
しかし、まだ「デザインは最後に形へ落とし込む工程」という認識が残る場面も少なくない。
もしデザインを「見た目を整えること」ではなく、「価値を体験として届ける設計」と捉えるのであれば、戦略とデザインは別々の工程ではなく、互いに影響を与え合う関係であるはずだ。
例えば、ユーザーインタビューによって得られた体験の気づきが、価値提案そのものを見直すきっかけになることもある。
ブランドの方向性が変われば、サービスの体験設計も変わる。
デザインは戦略を形にするだけではなく、ときには戦略そのものを磨く役割も担うのである。
本記事で伝えたいのは、「デザイナーをもっと早く参加させるべきだ」という単純な話ではない。
大切なのは、「デザインという視点」を新規事業開発の初期から持つことである。
価値提案を考える。
ブランドを考える。
ユーザー体験を考える。
これらは別々のテーマではなく、一つの価値を異なる角度から見ているに過ぎない。
だからこそ、戦略を考える場とデザインを考える場を切り離すのではなく、行き来しながら議論することが重要ではないだろうか。

ビジネスモデルキャンバスは、事業全体を整理するためのフレームワークである。
バリュープロポジションキャンバスは、提供価値を整理するためのフレームワークである。
そしてデザインは、その価値を「体験」としてユーザーへ届けるための設計である。
それぞれは競合する考え方ではなく、補完し合う存在である。
新規事業開発では、市場や収益性だけでなく、「ユーザーはどのように価値を感じるのか」という視点も、同じように重要ではないだろうか。
戦略、マーケティング、技術、そしてデザイン。
それぞれの専門性が交わることで、新しい価値はより強く、より魅力的なものになる。
FeatU編集部では、これからもデザインとビジネスをつなぐ視点から、新規事業開発、サービスデザイン、ブランディングについて発信していきます。
デザインを、ビジネスの意思決定の中心へ。
その未来に共感してくださる方と、一緒にこのコミュニティを育てていけたら嬉しく思います。
そのコミュニティプラットフォームである「FeatU」は現在、β版として公開中です。
次は、実践のステージへ。