ロゴは、どこまで変えていいのか。 ―― 2025-2026年のリブランディングから考える 

企業のロゴが変わる。

ニュースやSNSで新しいロゴを見かけると、つい新旧を並べて、

「前の方が好きだった」

「新しい方が今っぽい」

「なんだか普通になった」

そんなふうに、見た目の違いに目がいきます。

確かに、近年のロゴにはひとつの大きな傾向があります。

立体的だったものがフラットになり、色数が減り、線は細くなり、文字も読みやすくなる。

いわゆる「シンプル化」です。

少し前には、くら寿司、日産、BMWなどもロゴをシンプルな方向へ刷新しました。

そして2025年から2026年にかけても、企業のロゴやCIの刷新は続いています。

でも、最近の事例を見ていると、単純に

「ロゴはシンプルになっている」

だけでは説明できない変化も見えてきます。

新しくする。

でも、すべてを新しくするわけではない。

削る。

でも、大切なものまで削ってはいけない。

では企業は、

何を変えて、何を残すべきなのでしょうか。

今回は、2025年から2026年のリブランディング事例を中心に考えてみます。


なぜ企業は、ロゴを変えるのか。

そもそも、なぜ企業はロゴを変えるのでしょうか。

ロゴは、単なるマークではありません。

企業名を見なくても、その形を見れば企業が分かる。

色を見ただけでブランドを思い出す。

商品に小さく付いているだけでも、その企業への安心感やイメージにつながる。

長く使われたロゴほど、人々の記憶と結びついていきます。

それなら、変えない方が安全にも思えます。

それでも企業がロゴを変えるのは、企業そのものが変化するからです。

事業が変わる。

顧客が変わる。

市場が変わる。

海外へ進出する。

複数のブランドを統合する。

そして、企業が社会に対して伝えたいことも変わっていく。

ロゴの変更は、そうした企業の変化を外側から見える形にする行為でもあります。

だから本来、リブランディングで問われているのは、

「どんなロゴにするか」だけではありません。

その前に、

「これから、自分たちは何者でありたいのか」

という問いがあります。



CASE  01|日野自動車|32年ぶりの変更で「残したもの」

2026年、日野自動車は32年ぶりにコーポレートロゴを刷新しました。

新旧を比べると、新しいロゴは明らかにシンプルです。

従来のロゴにあった反射を表現する細かなラインなどをなくし、よりフラットな表現へ。

視認性や可読性を高め、デジタル環境でも使いやすい形に変更されています。

さらに、これまで用途によって存在していた複数のロゴも統一されました。

ここだけを見ると、近年よく見られる「ロゴのシンプル化」の一例にも見えます。

しかし、興味深いのは、

すべてを新しくしたわけではないことです。

1994年から続いてきた「HINO」の「H」をモチーフとした基本的な考え方は継承されています。

つまり、

変えたのは、ブランドそのものではなく、その表現方法だった。

32年間使われてきたものの中から、

今の時代には必要なくなった表現を削る。

一方で、

これからも企業を象徴するものは残す。

日野自動車の変更は、「新しくすること」よりも、

何を残すかを整理すること

に近いリブランディングだったとも考えられます。


CASE 02| NTT|40年間のシンボルを、あえて変えない

2025年、NTTグループもCIを大きく刷新しました。

商号は「日本電信電話株式会社」から「NTT株式会社」へ。

グループのブランド表記も整理され、ロゴタイプやコーポレートカラーなども見直されました。

40年という節目で行われた、大きなブランド刷新です。

それでも、NTTはひとつの象徴を残しました。

1985年から使われてきた、

「ダイナミックループ」

です。

NTTと聞いて、このマークを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

企業を新しく見せたいのであれば、シンボルまで変えてしまうという選択肢もあったはずです。

でも、変えなかった。

なぜなのか。

ダイナミックループには、一本の曲線によって企業のダイナミズムを表現するとともに、小さなループには「顧客や社会の声を企業活動の原点にする」という考えが込められています。

40年前につくられたものでも、

そこに込められた思想は、今の企業にも通用する。

だから残す。

ここには、リブランディングにおける重要な考え方があるように思います。

新しくすることと、

新しいものに取り替えることは、

同じではない。

「変えない」と決めることもまた、デザインなのかもしれません。


CASE 03|Cracker Barrel|「らしさ」を削った先に起きたこと

一方で、何を残すのかという判断の難しさを示した事例もあります。

アメリカのレストランチェーン、Cracker Barrel。

2025年、ブランド刷新の一環としてロゴを変更しました。

長年使われてきたロゴには、樽の横に座る人物が描かれていました。

新しいロゴでは、その人物と樽を削除。

ブランド名を中心とした、非常にシンプルなデザインになりました。

現代的。

見やすい。

デジタルでも扱いやすい。

デザインだけを見れば、近年のロゴトレンドにも沿っています。

しかし、新しいロゴは大きな議論を呼びました。

「ブランドらしさがなくなった」

という反応が広がり、新しいロゴは短期間で撤回され、従来のロゴへ戻されました。

もちろん、この反応をロゴデザインだけの問題として語ることはできません。

ブランド刷新全体への評価や、長年の顧客が持っていた企業へのイメージなど、複数の要因が重なっています。

それでも、この出来事は興味深い問いを投げかけます。

シンプルにすることと、ブランドらしさを削ることは同じなのか。


なぜ、ロゴはシンプルになったのか。

ここで、少し時間を戻してみます。

近年、多くの企業がロゴをシンプルにしてきました。

その大きな理由のひとつが、

ロゴが存在する場所の変化です。

かつてロゴが使われる場所といえば、

店舗の看板。

商品パッケージ。

新聞広告。

テレビCM。

名刺。

パンフレット。

比較的大きな面積で、ある程度の時間をかけて見てもらえる場所が中心でした。

現在は違います。

Webサイト。

スマートフォン。

SNS。

アプリ。

動画。

スマートウォッチ。

デジタルサイネージ。

数十ピクセルしかないアイコンの中でも、その企業だと認識してもらわなければならない。

しかも、私たちがひとつの情報を見る時間は短くなっています。

そうなると、

細かな装飾。

複雑なグラデーション。

小さな文字。

立体表現。

こうしたものは、場合によってはブランドを伝える助けではなく、ノイズになってしまう。

だから削る。

形を整理する。

色を絞る。

ロゴのシンプル化は、単なるデザイントレンドではなく、

ロゴが生きる環境そのものが変わった結果

とも考えられます。


でも、シンプルならいいわけではない。

ここが、最近のリブランディングの難しいところです。

デジタルで使いやすくする。

視認性を上げる。

小さな画面でも認識できるようにする。

そのためにシンプルにすることには合理性があります。

でも、合理性だけを突き詰めていくと、

企業ごとの違いまでなくなってしまう可能性があります。

読みやすいフォント。

シンプルなシンボル。

少ない色。

フラットな表現。

どれも合理的です。

しかし、すべての企業が同じ方向へ向かえば、

「見やすくなったけれど、誰なのか分からない」

ということも起こり得ます。

デザインには、

分かりやすくすることと、

その企業らしくすること。

その両方が求められます。

そして、この二つは必ずしも同じ方向を向いているわけではありません。


ブランドには「記憶」がある。

ロゴを考えるとき、もうひとつ忘れてはいけないものがあります。

人の記憶です。

企業側から見れば、ロゴは「ブランド資産」です。

でも、生活者から見れば少し違います。

子どもの頃から見ていた。

家族と行った店にあった。

毎日使っていた商品についていた。

初めて買った車についていた。

そんな個人的な記憶と、ロゴが結びついていることがあります。

企業が所有しているロゴであっても、

長く使われることで、

その意味の一部は生活者の中にも蓄積されていく。

だから企業側が、

「古くなったから新しくしよう」

と思っても、

生活者にとっては、

「自分が知っているブランドがなくなった」

と感じることがある。

Cracker Barrelの事例が示しているのも、こうしたブランドと記憶の関係なのかもしれません。

リブランディングでは、

企業がこれからどうなりたいかだけではなく、

これまで人々の中に何が積み重なってきたのか

も考える必要があります。


「何を変えるか」より、「何を残すか」

日野自動車。

NTT。

Cracker Barrel。

3つの事例は、それぞれ背景も目的も異なります。

それでも並べてみると、共通する問いがあります。

そのブランドにとって、なくしてはいけないものは何か。

日野自動車は、細かな表現を変えながら、ロゴの基本思想を残した。

NTTは、大きなCI刷新の中でも、40年間使われてきたシンボルを残した。

Cracker Barrelでは、長年親しまれてきた象徴を取り除いたことが大きな議論になった。

そう考えると、リブランディングとは、

すべてを新しくすることではなく、

積み重ねてきたものを一度テーブルの上に並べ、未来に持っていくものを選ぶ作業

なのかもしれません。


ロゴは、どこまで変えていいのか。

この問いに、共通の正解はありません。

企業によって歴史も違う。

顧客も違う。

事業も違う。

これから向かう場所も違う。

だからこそ、ロゴを変える前に考えなければならないことがあります。

自分たちは、何者なのか。

何を大切にしてきたのか。

人々は、自分たちの何を覚えているのか。

これから、何を変えたいのか。

そして、

何だけは、変えてはいけないのか。

そこまで考えて初めて、新しいロゴの形が見えてくる。

ロゴを変えることは、

デザインを新しくすることではありません。

企業が積み重ねてきたものの中から、

何を残し、何を未来へ持っていくのかを選ぶこと。

そして、それをもう一度、形にすること。

そう考えると、

リブランディングとは、企業が改めて、

「自分たちは何者なのか」

をデザインすることなのかもしれません。


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