Designship 2025で見えた「デザイナーの仕事」の変化

制作から意思決定へ。デザインはどこまで広がるのか

2025年10月、東京ミッドタウンで開催されたDesignship 2025。

毎年、日本を代表するデザイナーや経営者、プロダクトマネージャーが集まり、デザインの現在地と未来について議論が交わされる国内最大級のデザインカンファレンスだ。

会場を歩きながら感じたのは、AIの進化でも、新しいデザインツールでもなかった。

もっと根本的な変化である。

それは、「デザイナーの仕事そのものが変わっている」という事実だった。

かつてデザインは、プロジェクトの後半工程に位置する専門職だった。

しかし現在、デザイナーはプロダクト開発の上流へ、さらには経営や組織の領域へと活動範囲を広げている。

Designship 2025で繰り返し語られていたのも、その変化だった。

デザインはどこまで広がるのか。

そして、デザイナーは何者になろうとしているのか。

Designship 2025で見えてきた「デザイナーの仕事」の変化を考察したい。


デザインは専門領域から「組織能力」へ

かつてデザインは、見た目を整える仕事として認識されることが多かった。

ロゴを作る。

広告を作る。

Webサイトを作る。

アプリのUIを設計する。

もちろん現在も重要な仕事である。

しかしDesignship 2025で語られていたのは、その先の話だった。

MVV策定。

DX推進。

サービス設計。

ブランディング。

組織変革。

これらは別々の領域に見えるが、本質的には「人と価値をつなぐ意思決定」である。

そして、その意思決定を支える行為こそが、デザインとして捉えられ始めている。

デザインは専門領域ではなく、企業の競争力を支える組織能力へと変化している。

これは一時的なトレンドではない。

企業そのものが、デザインを経営資源として扱い始めた結果である。


「デザイナーとは何者か」という問い

Designship 2025で最も印象的だった問いの一つが、

「デザイナーとは何者か」

だった。

興味深いのは、その答えがスキルや職種ではなく、思考様式として語られていたことだ。

課題を解決する人ではなく、課題を再定義する人。

形を作る人ではなく、構造を設計する人。

表現者ではなく、意思決定の補助線を引く人。

デザインの価値は、アウトプットそのものではなく、その背景にある問いや思考へと移り始めている。

だからこそ、多くの企業がデザイナーに求める役割も変化している。

単に画面を作る人ではない。

組織や事業の意思決定に関わる存在として期待されているのである。


ポートフォリオだけでは測れない価値

note株式会社CDOの宇野雄氏のセッションも印象的だった。

宇野氏は、

「ポートフォリオだけでは、デザイナーの価値は測れない」

と語った。

実際、noteでは採用においてワーク選考を重視しているという。

評価しているのは完成した成果物だけではない。

どのように課題を捉えるのか。

どのように他者と協働するのか。

どのような問いを立てるのか。

そうしたプロセスそのものを見ている。

これは現在の採用市場全体にも共通する変化かもしれない。

優れたデザイナーとは、優れたアウトプットを生み出す人ではなく、優れた意思決定を生み出せる人へと変わりつつある。


なぜ企業はデザイン組織を拡大しているのか

Designshipでは、多くの企業がデザイン組織について語っていた。

たとえばMoney Forwardでは、CDOを中心とした大規模なデザイン組織が構築されている。

SOMPOグループでは、デザイナーがDX推進や業務変革に深く関わっている。

NRIでは、コンサルティングとデザインを組み合わせたサービス開発が進められている。

共通しているのは、デザインを制作部門として扱っていないことだ。

デザイナーは、経営と現場をつなぐ存在になりつつある。

顧客価値を発見する。

複雑な課題を整理する。

異なる部門の共通言語をつくる。

企業がデザイン組織へ投資している理由は、画面を美しくするためではない。

変化に適応できる組織をつくるためである。


AI時代に残る仕事

生成AIの進化によって、制作のハードルは大きく下がった。

レイアウトも。

コピーも。

画像も。

一定水準のアウトプットであれば短時間で生成できる。

しかしDesignship 2025で感じたのは、AIによってデザイナーの価値が下がるという話ではなかった。

むしろ逆である。

AIによって制作が効率化されるほど、人間には「何を作るべきか」を判断する力が求められる。

制作。

設計。

問いの定義。

デザイナーの役割は、この順番で上流へ移動している。

残るのは作業ではない。

問いである。

そして、その問いを組織や社会の課題と接続できる人ほど価値を持つ。


制作から意思決定へ

Designship 2025を通じて感じたのは、デザインの仕事が広がったということではない。

社会が、デザインを必要とし始めたということだ。

プロダクト開発。

組織変革。

DX。

ブランディング。

新規事業。

それぞれ異なる領域に見える。

しかし本質的には、人と価値をつなぐ意思決定の連続である。

そして、その意思決定を支えるのがデザインになりつつある。

デザイナーは、制作の専門家から意思決定の支援者へ。

あるいは、未来の可能性を可視化する存在へ。

Designship 2025で見えたのは、そんな変化の輪郭だった。

デザインはどこまで広がるのか。

その答えはまだ分からない。

しかし一つだけ確かなことがある。

デザインの仕事は、画面の中にはもう収まっていない。

次は、実践のステージへ。

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