多くの企業がファンを増やしたいと考えている。
SNSを運用する。
イベントを開催する。
コミュニティを作る。
しかし、ファンは企業が作るものではない。
顧客が自らなっていくものである。
では、人はなぜ応援したくなるのだろうか。
そのヒントは、世界最大級のイベントであるワールドカップにある。
ワールドカップを見ていると、私たちは単にサッカーを見ているわけではない。
選手のキャリア。
努力。
代表への挑戦。
国を背負う覚悟。
そこに感情移入している。
例えば本田圭佑。
例えば三笘薫。
私たちが応援するのは、プレーそのものだけではない。
その背景にある物語である。
ブランドも同じだ。
人はスペックや機能だけで熱狂することは少ない。
そのブランドが何を信じているのか。
なぜ存在しているのか。
どんな未来を目指しているのか。
そこに共感した時、人は単なる顧客からファンへと変わっていく。
興味深いのは、多くの人が普段サッカーを見ないにもかかわらず、ワールドカップになると日本代表を応援することである。
なぜだろうか。
それはサッカーが好きだからだけではない。
「日本代表だから」である。
心理学には社会的アイデンティティという考え方がある。
人は何かの集団に所属することで、自分自身を認識する。
地域。
学校。
会社。
スポーツチーム。
そして国。
ワールドカップで日本代表を応援する行為は、単なるスポーツ観戦ではない。
自分がどこに属しているのかを確認する行為でもある。
応援とは、対象への愛着だけではない。
自分自身を表現する行為でもあるのである。
ワールドカップは90分の試合だけで成立しているわけではない。
予選が始まる。
代表メンバーが発表される。
ユニフォームが公開される。
SNSで議論が始まる。
試合を観戦する。
感想を共有する。
次の試合を待つ。
そこには長い体験の流れが存在する。
実は私たちが熱狂しているのは試合そのものだけではない。
その前後を含めた体験全体なのである。
これはUXデザインの考え方と非常によく似ている。
優れた体験は、一瞬では作れない。
出会いから参加まで、一連の流れが設計されている。
ワールドカップは世界最大級のUXデザイン事例と言ってもよいだろう。

この構造はスポーツだけのものではない。
Appleはスマートフォンを販売している会社ではない。
新製品発表を楽しみに待ち、情報を共有し、購入体験を語りたくなる文化そのものを作っている。
Disneyも同じである。
アトラクションを提供しているだけではない。
人々が物語の一部になれる体験を提供している。
だから人は何度も訪れる。
そして誰かに勧めたくなる。
優れたブランドは商品を売っているのではない。
参加したくなる世界観を設計しているのである。
優れたコミュニティは、この変化を生み出している。
最初は興味を持つ。
共感する。
参加する。
愛着を持つ。
応援する。
この流れが生まれた時、人とブランドの関係は変わる。
単なる利用者ではなくなる。
ファンになるのである。
企業がコミュニティを作ろうとすると、つい機能から考えがちだ。
フォロー機能。
コメント機能。
イベント機能。
しかし本質はそこではない。
なぜ参加したいのか。
なぜ応援したいのか。
その理由がなければ、人は集まらない。
逆に、その理由があれば人は自然と集まり、語り合い、広がっていく。
ワールドカップには試合がある。
しかし、人々が熱狂するのは試合だけではない。
選手を知る。
応援する。
語り合う。
共有する。
参加する。
その一連の体験があるから、人はファンになる。
コミュニティも同じである。
優れたコミュニティは機能から生まれない。
人が参加したくなる理由から生まれる。
フォロー機能でもない。
コメント機能でもない。
「応援したくなる物語」が存在するとき、人は自然と集まり始める。
ワールドカップが教えてくれるのは、スポーツの面白さではない。
人が熱狂する体験の設計思想である。
優れたブランドとは、商品を売る存在ではない。
人が参加し、語り、応援したくなる体験をデザインする存在なのである。
次は、実践のステージへ。