ユーザー視点とは何か──「普通」という幻想

私たちは「普通」という言葉をよく使う。

  1. 普通のUI

  2. 普通のユーザー

  3. 普通の操作方法

しかし、その「普通」は誰が決めたのか。

多くの場合、それは 設計者自身の経験である。

自分が見やすいもの、自分が理解しやすいもの、自分が使いやすいもの。無意識のうちに、それが標準だと思ってしまう。

この現象を説明する概念が アンコンシャス・バイアス(無意識の偏り) である。


「普通」という幻想が生む問題

デザインの失敗は、派手なミスから生まれるとは限りらない。

むしろ多いのは、「自分なら分かる」 という前提である。

①スマホの片手操作

初期設計が右利き前提になっているアプリは少なくない。左利きユーザーは、毎回指を伸ばして操作する必要がある。

②小さすぎる「戻る」ボタン

若い開発者には問題なくても、高齢者にとっては押しづらい。結果として「使いにくいサービス」になる。

③色だけで伝えるUI

赤と緑で状態を区別するデザインは、色覚特性によって判別しづらいことがある。

どれも悪意はない。

問題は、「普通のユーザー像」が固定されていることだ。


駅の案内板は誰を見ているか

駅のサインデザインは、実は「普通」の罠が見えやすい領域である。

次のような前提が入り込みやすい。

前提

見落とされる人

漢字が読める

訪日外国人

小さな文字が読める

高齢者

色で区別できる

色覚特性のある人

階段移動ができる

車椅子利用者

最近の大規模駅では、ピクトグラム、英語表記、大きな文字、エレベーター導線などが強化されている。

これは単なる「配慮」ではなく、利用者全体の体験を改善する戦略である。

多様な利用者を前提にすると、結果的に全員にとって分かりやすくなる。

これがインクルーシブデザインの重要な発見である。


BtoBシステムにも同じ問題がある

この話は公共デザインだけではない。

企業の業務システムでも同じである。

  1. 専門用語だらけの画面

  2. 説明書がないと操作できないUI

  3. 入力ミスが起きやすいフォーム

設計者には理解できるため、問題に気づきにくい。

しかし利用者は毎日迷い、ミスし、問い合わせを行う。

結果として、業務コストが増えてしまう。

つまり「普通」の幻想は、UXの問題 であると同時に、経営の問題でもある。


「普通」を疑う企業は強い

近年、成功している企業ほど「普通」を疑っています。

Apple

VoiceOver、拡大表示、音声操作など、多様な利用者を前提にした設計を継続

ユニクロ

年齢・性別に固定されないモデル起用や幅広いサイズ展開により、「誰のための服か」を拡大

note

職業・地域・属性を問わず発信できる場を設計し、「書き手の多様性」を確保

共通するのは、単一のユーザー像を前提にしていないことである。

これは倫理の話だけではなく、市場を広げる戦略と捉えることもできる。


ユーザー視点とは「自分を疑うこと」

ユーザー視点というと、「ユーザーの立場に立つこと」と説明されがちである。

しかし本質は少し違いう。

本当に難しいのは、自分の前提を疑うことだ。

自分にとって自然な操作が、他人にとっても自然とは限らない。

自分にとって分かりやすい言葉が、他人にも分かりやすいとは限らない。

優れたUXリサーチが行うのは、「ユーザーを観察すること」だけではない。

設計者の思い込みを発見することでもある。


リサーチの本当の役割

  1. ユーザーを観察する

  2. 設計者の思い込みを発見する

  3. 見えていなかった前提を更新する


「普通」を疑うことが、イノベーションの入口になる

「普通」という言葉は便利である。

でも、その便利さは、ときに視野を狭くするときがある。

デザインの進化は、多くの場合、「それ、本当に普通?」 という問いから始まる。

その問いが、見落としていたユーザーを発見し、新しい体験を生み、結果として新しい価値につながる。

つまり、ユーザー視点とは「みんなの立場に立つこと」ではなく、自分の前提を疑い続けることなのかもしれない。

そして、その疑問こそが、次のイノベーションの入り口になる。

次は、実践のステージへ。

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