2026年9月8日、電通デジタルは、デジタル制作物のレビューをAIで自動化・支援するソリューション「DeGA(Design Governance Agent)」の提供を開始した。
企業ごとのデザインガイドラインやブランドルール、アクセシビリティ基準などをAIに組み込み、Webサイトやアプリケーションがそれらに適合しているかを自動で確認する仕組みである。
さらに興味深いのは、単に「ルールに違反していないか」を確認するだけではない点だ。
複数のプロダクトを横断して、ボタン、フォーム、ナビゲーション、レイアウト、色、タイポグラフィ、文言などの差異を検出する。
そして、ガイドライン自体が存在しない場合には、既存のプロダクトをAIが解析し、そこからデザインのルールを逆算して整理することまで想定されている。
これまで人間が行ってきた「デザインレビュー」という行為の一部を、AIが担い始めているのである。
デザインの現場では、こんな会話がよく起きる。
「なんとなくブランドらしくない」
「前のページと少し違う」
「このボタンだけ違和感がある」
「もう少し見やすくしたい」
デザイナーであれば、その違和感の正体を説明できることも多い。
余白が違う。
文字サイズが違う。
色の使い方が違う。
コンポーネントのルールから外れている。
しかし、プロダクトが増え、関係者が増え、制作物が増えていけば、それらを人間だけで確認し続けることには限界がある。
だからこそ、デザインシステムやガイドラインがつくられてきた。
そして今、その「ルールに沿っているか」という確認そのものを、AIが担えるようになりつつある。
これは単なる業務効率化の話ではない。
デザインという仕事の中で、人間が判断すべき領域が変わり始めているということではないだろうか。
もちろん、AIがすべてのデザインの良し悪しを判断できるわけではない。
ここには重要な違いがある。
「ガイドラインに沿っているか」と、
「そのデザインが本当に良いか」は、
同じではない。
例えば、ボタンの高さが正しいか。
ブランドカラーが正しく使われているか。
タイポグラフィのルールが守られているか。
アクセシビリティ上の問題がないか。
こうした、一定の基準によって評価できる「正しさ」は、AIとの相性がいい。
一方で、
なぜ、このサービスをつくるのか。
誰の、どんな課題を解決するのか。
どんな体験を届けたいのか。
その企業らしさとは何なのか。
そして、そのデザインによって社会や人の行動をどう変えたいのか。
こうした問いには、唯一の正解が存在しない。
実は、その前日の9月7日にも、電通デジタルは興味深い発表をしている。
ユーザーリサーチ、インサイト分析、カスタマージャーニー設計、体験設計などのCXデザイン業務について、AI活用を前提として業務プロセスそのものを再設計する「AI×CX業務リデザイン」である。
AIの対象が、制作からレビューへ。
そして、リサーチや体験設計へ。
少しずつ、デザインプロセスの上流へと広がっている。
だとすれば、「AIはデザインができるのか」という問いだけでは、もう十分ではないのかもしれない。
むしろ考えるべきなのは、
AIがデザインプロセスの多くに参加するようになったとき、人間はどこで意思決定をするのか。
という問いである。
生成AIが登場して以降、「デザイナーの仕事はAIに奪われるのか」という議論は繰り返されてきた。
しかし、少し違う見方もできる。
仕事がなくなるのではなく、仕事の重心が動いているのではないか。
ルールに沿っているかを確認する。
大量のパターンをつくる。
情報を整理する。
既存のデザインとの違いを見つける。
こうした仕事をAIが担うようになれば、人間が使える時間は別の場所へ移っていく。
「どうつくるか」から、
「何をつくるか」へ。
そして、
「なぜ、それをつくるのか」へ。
デザイナーの価値が、制作能力だけではなく、問いを立て、意味を見つけ、意思決定に関わる能力へと移っていく可能性がある。
デザインは長い間、ビジネスの最後に呼ばれることが多かった。
事業の方向性が決まり、サービスの仕様が決まり、要件が決まったあとで、
「では、デザインをお願いします」
と呼ばれる。
しかし、AIが制作やレビューを担えるようになるほど、人間のデザイナーが最後の工程だけに存在する意味は小さくなっていく。
逆に、
何をつくるのか。
誰のためにつくるのか。
なぜつくるのか。
何を「良い」とするのか。
その判断にデザインが関わる意味は、これまで以上に大きくなる。
AIによって、デザインが不要になるのではない。
AIによって、「デザインとは何をすることなのか」が、もう一度問われ始めている。
そして、その問いの先にあるのは、デザインの仕事が狭くなる未来ではなく、もっとビジネスの上流へと広がっていく未来なのかもしれない。
ルールを守ることをAIが支援できるなら、人はルールを考える。
正しさをAIが確認できるなら、人は「何を正しいとするのか」を考える。
つくることをAIが支援できるなら、人は「なぜつくるのか」を考える。
デザインを、最後の工程から、最初の意思決定へ。
DESIGN AT THE CORE.
次は、実践のステージへ。