夏には、ブランドガイドラインがない。

毎日、暑い日が続いている。

強い日差し、青い空、入道雲、蝉の声。

夏という季節には、誰もが共有している「夏らしさ」がある。

しかし考えてみれば、夏にはロゴもなければ、ブランドガイドラインもない。

青い海を見ても夏を感じる。
夕焼けのオレンジを見ても夏を感じる。
ひまわりの黄色も、花火が上がる夜空の黒も夏である。

表現はこれほど違うのに、そこにある「夏らしさ」は失われない。

ブランディングという視点で考えると、夏は非常に興味深い存在である。


強いブランドは、見た目だけではつくられない


ブランディングというと、ロゴ、ブランドカラー、フォント、写真など、視覚的な一貫性を整えることを想像しやすい。

もちろん、ブランドの認知を形成するうえで、ビジュアル・アイデンティティは重要である。

しかし夏には、それらを統一するルールが存在しない。

海と花火では、色も形も違う。

風鈴と入道雲には、視覚的な共通点すらほとんどない。

それでも、私たちはそこに同じ「夏」を感じる。

これは、ブランドにとって重要な示唆を含んでいる。

強いブランドとは、すべての表現が同じであることではなく、異なる表現の中にも共通した「らしさ」が存在する状態なのではないか。


「らしさ」は、記憶によって形成される

では、夏らしさはどこから生まれるのか。

その一つは、記憶である。

夏休み、海、祭り、花火、蝉の声、冷たい飲み物。

人は長い時間をかけて、それらの体験を「夏」という概念と結びつけてきた。

つまり、夏らしさは誰かによって一方的に定義されたものではない。

一人ひとりの体験が蓄積され、社会の中で共有されることで形成されてきたものである。

ブランドも同様である。

企業が掲げるMissionやVision、ロゴや広告だけでブランドが完成するわけではない。

商品を購入した体験。
Webサイトを利用した体験。
店舗で接客を受けた体験。
SNSで目にした言葉。

それらすべてが少しずつ記憶として蓄積され、その人の中にブランドのイメージをつくっていく。

ブランドとは、企業が所有するものではなく、生活者の記憶の中に形成されるものだと考えることもできる。


「らしさ」があれば、表現はもっと自由になれる

夏の面白さは、表現の幅が非常に広いことである。

青だけが夏ではない。

白も、黄色も、赤も、オレンジも、黒も夏になり得る。

つまり、強いアイデンティティがあるからこそ、表現の自由度が高い。

これは企業ブランドにも当てはまる。

ブランドの軸が曖昧な状態では、ロゴやブランドカラーを繰り返すことで一貫性を担保しようとしやすい。

一方で「自分たちは何者なのか」が明確なブランドは、表現を変えても、そのブランドらしさを維持できる。

一貫性とは、同じものを繰り返すことではない。

違う表現をしても、同じものを感じさせることである。

夏は、それを極めて自然な形で実現している。


「終わること」も、ブランド体験になる

そして、夏にはもう一つ特徴がある。

必ず終わることである。

夏休みが永遠に続かないことを、誰もが知っている。

だからこそ、海へ行き、花火を見て、「今年の夏」を残そうとする。

終わりが近づけば、少し名残惜しくなる。

もし夏が一年中続いていたら、夏はここまで強く記憶されないかもしれない。

有限であることによって、体験の価値が高まり、「また来年」という期待が生まれる。

ブランドにおいても、すべてを常に提供し続けることだけが正解とは限らない。

期間限定の商品、季節ごとの体験、イベント、変化するコンテンツ。

「今しかない」という感覚が体験を特別なものにし、その記憶が次の接点への期待につながることがある。

名残惜しさもまた、ブランド体験の一部なのである。


ブランドは、「らしさ」の記憶を積み重ねること

ロゴをつくる。
色を決める。
フォントを統一する。

それだけがブランディングではない。

さまざまな接点で体験したものが、少しずつ記憶として積み重なり、いつしか説明しなくても「らしい」と感じてもらえる。

夏という季節が、何十年もの記憶によって私たちの中に「夏らしさ」をつくってきたように。

強いブランドとは、

「これが私たちです」と伝え続けることではなく、いつの間にか「これって、あのブランドらしいよね」と感じてもらえる状態をつくることなのかもしれない。

FeatUも、デザインを通じた一つひとつの出会いや、そこにある思考、ストーリー、対話を積み重ねながら、「FeatUらしさ」を育てていきたいと考えている。

ブランドは、一日ではつくられない。

だからこそ、積み重ねていく価値がある。


FeatU編集部では、これからもデザインとビジネスをつなぐ視点から、新規事業開発、サービスデザイン、ブランディングについて発信していきます。

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