デザインにおける「問い」とは何か――良いデザインは、なぜ問いから始まるのか 

前回の記事では、「デザインで一番大切なものとは何か」というテーマについて考察した。

その中で、本質的なデザインは、人や企業、そして課題を理解することから始まるという考えを述べた。

では、その「理解」はどのようにして生まれるのであろうか。

その出発点となるのが、「問い」である。

デザインは、色やレイアウトを決めることから始まるものではない。

最初に行うべきことは、「何を解決すべきなのか」を問い直すことである。

本稿では、デザイン思考(Design Thinking)、人間中心設計(Human-Centered Design)、ブランドデザインの観点から、「問い」がデザインにおいて果たす役割について考察する。


デザインにおける「問い」とは

一般的に「問い」とは、答えを導き出すための質問を意味する。

しかし、デザインにおける問いは、それとは少し意味が異なる。

デザインにおける問いとは、

「解決すべき課題を明確にするための思考プロセス」

である。

例えば、

「もっと高級感のあるWebサイトにしたい。」

という要望があったとする。

この要望をそのまま受け取り、高級感のある色や写真、タイポグラフィを採用することは難しくない。

しかし、本質的な問いは別に存在する。

なぜ、高級感が必要なのであろうか。

価格競争から脱却したいのか。

企業としての信頼性を高めたいのか。

ターゲット市場を変えたいのか。

ブランドポジションを見直したいのか。

この問いに対する答えによって、デザインの方向性は大きく変化する。

つまり、デザインを決定するのは視覚表現ではなく、「問い」なのである。


デザイン思考は「問い」を発見するプロセスである

デザイン思考(Design Thinking)は、イノベーションを生み出すためのフレームワークとして広く知られている。

そのプロセスは一般的に、

の五段階で構成される。

ここで注目すべき点は、「Ideate(発想)」よりも前に、「Empathize(共感)」と「Define(課題定義)」が位置付けられていることである。

つまり、デザイン思考は最初からアイデアを生み出す手法ではない。

まず人を理解し、その背景を理解し、本当に解決すべき課題を定義する。

この「課題定義」のプロセスこそが、「問い」を立てる行為に他ならない。

良いアイデアは、良い問いの上にしか成立しないのである。


人間中心設計(HCD)における問い

人間中心設計(Human-Centered Design:HCD)も同様の考え方を採用している。

ISO 9241-210では、人間中心設計を「利用者に対する深い理解を基盤とした設計プロセス」と定義している。

重要なのは、利用者が何を求めているかだけではない。

こうした背景を理解することで、初めて本質的な課題が見えてくる。

すなわち、人間中心設計とは、「利用者を理解する設計手法」であると同時に、「問いを磨く設計手法」でもある。


ブランドデザインも問いから始まる

ブランドデザインも例外ではない。

「ロゴを新しくしたい。」

という要望に対して、すぐにロゴデザインを考え始めることは、本質的なアプローチとは言えない。

まず考えるべき問いは、

「なぜ、ブランドを変える必要があるのか。」

である。

企業は何を社会に約束したいのか。

どのような存在として認識されたいのか。

競争優位はどこにあるのか。

ブランドが担う役割は何か。

これらの問いが明確になって初めて、ブランドデザインは意味を持つ。

ロゴやWebサイトは、その問いに対する答えを可視化した結果に過ぎない。


良い問いが、良いデザインを生む

デザインにおいて、美しさは重要な要素である。

論理性も必要である。

ユーザー視点も欠かせない。

しかし、それらはすべて「問い」の上に成り立っている。

問いが曖昧であれば、どれだけ完成度の高いアウトプットであっても、本質から外れてしまう可能性がある。

一方で、問いが明確であれば、デザインは一貫性を持ち、企業や利用者にとって意味のあるものとなる。

デザインとは、「形をつくる仕事」ではない。

問いを立て、本質を理解し、その答えを形にする営みなのである。


おわりに

デザインは、ツールを開いた瞬間に始まるものではない。

その前に、

「なぜ、この課題があるのか。」

「本当に解決すべきことは何なのか。」

と問い続ける時間が存在する。

その問いが、人を理解し、企業を理解し、課題を理解することにつながる。

そして、その理解こそが、良いデザインの土台となる。

優れたデザインとは、優れた表現から生まれるものではない。

優れた問いから生まれるものなのである。


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